元請から「電子契約にします」と言われた下請へ|承諾する前に確認する5点と、メールの返事の例
この記事の結論
- 電子契約への承諾は義務ではなく、承諾したあとで撤回もできる
- 返事の前に確認するのは、方式・自分側で必要なもの・費用・契約後のデータ・自社の保存の5点
- 返事はメールで残せる。そのまま承諾する例と、確認してから承諾する例を載せた
- 契約が成立したら、PDFを自社にも保存して一覧に載せる
公式情報の確認日:2026年11月1日
目次(10項目)
「元請から『今後の契約は電子契約でお願いします』とメールが来た。パソコンが得意ではないが、断れるのか」「返事は何と書けばよいのか」。下請の専門工事会社では、こうした相談が増えています。
結論は3つです。
- 電子契約への承諾は義務ではありません。承諾したあとで、撤回することもできます(建設業法施行令5条の5)。
- 返事をする前に、次の5点を元請に確認します。方式(サービス名など)、自分側で必要なもの、費用、契約後のデータの受け取り方、自社の保存方法です。
- 返事はメールで残せます。この記事に、2パターンの文例を載せました。
この記事の法令・ガイドライン・各サービスの案内は、特に書いていない限り2026年11月1日に公式の情報で確認したものです。法令の根拠や3つの技術的基準の詳しい説明は、建設会社の電子契約の始め方にまとめてあります。この記事は、受け取る側(下請)の場面に絞っています。
まず結論:断れる。ただし「条件を聞く」返事が現実的
建設業法施行令5条の5は、次のように定めています(e-Gov 法令検索 建設業法施行令 第5条の5、2026年11月1日確認)。
- 電子契約にするには、あらかじめ、使う方法の種類と内容を相手方に示し、書面または電子の方法で承諾を得る
- 相手方が書面または電子の方法で承諾を撤回する旨を申し出たら、電子契約にしてはいけない(相手方があらためて承諾した場合を除く)
つまり、下請は承諾しないことも、承諾後に戻すこともできます。
ただし、元請との取引を続けたいなら、いきなり断るより「条件を聞く」返事のほうが進めやすい場合もあります。これは法令の話ではなく、選び方の一つです。断る、そのまま承諾する、確認してから承諾する、のどれにするかは、取引の事情で決めてください。
承諾しなかった場合に取引にどう影響するか、元請の対応が問題になるかは、この記事の確認範囲では書けません。個別の事情は、国土交通省や都道府県の建設業の担当窓口、行政書士に相談してください。
元請から来る連絡の3パターン
電子契約の連絡は、会社によって形が違います。次の3つが例です(これは分かりやすくするための分け方で、法令の分類ではありません)。
| パターン | 連絡の例 | 注意する点 |
|---|---|---|
| 承諾書が届く | 「電子契約の利用に関する承諾書」に記入して返送する | 方式が書いてあるか見る。書いてなければ、返送前に質問する |
| サービスの「同意ボタン」 | 契約サービスからメールが届き、画面で内容を見て同意する | 同意の前に、サービス名と、自分の側で必要なものを確かめる |
| メール一文 | 「次回から電子契約にします。ご承諾ください」だけ | 方式の説明がない。返事の前に5点を聞く |
3つめの「メール一文」の場合は、特に注意が必要です。国土交通省のガイドラインは、承諾の前に、元請が使う方法の内容を示すことを求めています(次の節)。
承諾する前に確認する5点
国土交通省の「電磁的措置による建設工事の請負契約の締結に係るガイドライン」(令和7年9月30日)は、承諾をとるときに、相手方へ示す内容を挙げています(国土交通省 ガイドライン(PDF)、2026年11月1日確認)。
- 使う方法の種類(電子メール、クラウドサービスなど)。サービスの名称も示すことが望ましい
- 契約書の電子データの形式(PDF など)
- 契約書の電子データを使うときのソフトウェアの形式とバージョン
- 電子署名またはタイムスタンプの形式
この4つが示されていなければ、元請に聞いてかまいません。ここに、下請の実務で気になる点を加えた5点が、次の表です。
| 確認すること | 元請への聞き方 | あいまいなときの対応 |
|---|---|---|
| 1 方式 | 「使うサービスの名前と、契約書のファイル形式、署名の方式を教えてください」 | 書面かメールで、回答をもらう。口頭だけにしない |
| 2 自分側で必要なもの | 「こちらでアカウント登録は必要ですか。パソコンとスマホのどちらで操作しますか」 | サービスの公式ヘルプを自分でも確かめる |
| 3 費用 | 「こちら側で費用は発生しますか」 | 発生するなら、金額と誰が持つかを文書で決めてから承諾する |
| 4 契約後のデータ | 「契約が成立したら、こちらにも PDF をもらえますか。いつまで見られますか」 | もらえないなら、自社に保存できるか確認する |
| 5 自社の保存 | 「こちらで保存してよい形式ですか」 | 保存の決め方は、後の節を参照 |
2 自分側で必要なもの(サービスで違います)
受け取る側にアカウントが要るかは、サービスごとに違います。例として、2社の公式ページで確認できた範囲を挙げます。
- クラウドサイン:受信者側にアカウント登録は不要で、利用規約に同意すれば書類の確認・同意ができます。ただし、「高度な認証リクエスト機能」を使った書類を送る場合は、受信者側もアカウント登録が必要とされています(クラウドサインの公式の案内、2026年11月1日確認。詳しくは公式の案内で確認してください)
- GMOサイン:立会人型電子署名(契約印タイプ)では、相手方は GMOサインに加入していなくても締結できます。当事者型電子署名(実印タイプ)を相手に求める場合は、相手方も GMOサインの利用が必要です(GMOサインの公式の案内、2026年11月1日確認。詳しくは公式の案内で確認してください)
これは2社の例で、ほかのサービスは別の条件かもしれません。元請が使うサービスの名前を聞いて、そのサービスの案内で確かめてください。
3 費用(受け取る側の費用は確認できていません)
受け取る側が無料かどうかは、今回の確認では2社の公式ページから「無料」と明記された記載を確認できませんでした。そのため、ここでは「無料です」と断定できません。元請に「こちら側で費用が発生するか」を聞いて、文書で答えをもらうのが確実です。
5 自社の保存(電子帳簿保存法)
電子契約のデータは、電子帳簿保存法の「電子取引」に当たり、電子のまま、決められた要件で保存します。要件の中身(改ざん防止・検索・見られる状態)は、親の記事の表にまとめています(国税庁の一問一答。親記事の確認日は2026年10月24日)。この記事では、運用だけを説明します(後の「受け取ったあとにやること」)。
返事のメール例
承諾は、メールでもかまいません。国土交通省のガイドラインは、承諾を得る方法の例として、書面のほか、電子メールやクラウドサービスを挙げています(同ガイドライン)。ただし、当事者が記録を印刷して書面にできる方法でなければなりません(建設業法施行規則 第13条の6第2項、2026年11月1日確認)。メールは印刷できるので、この点は問題になりにくいでしょう。
会社名・人名は仮のものです。自社の名前に置き換えてください。
1 そのまま承諾する場合
方式が示されていて、内容に問題がないときの返事です。
件名:電子契約の利用について(承諾)
〇〇建設株式会社 工事課 △△様
いつもお世話になっております。□□工業の山田です。 ご連絡いただいた、電子契約の利用について、承諾いたします。 方式は「〇〇サイン、PDF 形式、電子署名・タイムスタンプ付き」とご案内いただいた内容で承知しております。 契約成立後は、当社にも PDF を送っていただけますようお願いいたします。
以上、よろしくお願いいたします。
2 確認してから承諾する場合
方式が示されていない、または不明な点があるときの返事です。承諾は、回答を見てからにします。
件名:電子契約の利用について(確認のお願い)
〇〇建設株式会社 工事課 △△様
いつもお世話になっております。□□工業の山田です。 電子契約のご連絡をありがとうございます。前向きに検討したいので、次の点を教えてください。
- 使用するサービスの名称、契約書のファイル形式、署名の方式
- 当社側でのアカウント登録の要否、操作に使う機器(パソコン・スマートフォン)
- 当社側で費用が発生するか
- 契約成立後に、当社も PDF を受け取れるか、いつまで閲覧できるか
ご回答をいただいたうえで、あらためて承諾の可否をお返事いたします。 恐れ入りますが、ご回答はメールでいただけますと助かります。
以上、よろしくお願いいたします。
回答のメールは、保存しておきます。後で「聞いていた話と違う」ことになったときの記録になります。
断る・条件を付けるときは
承諾しない場合は、「電子契約は承諾しません。従来どおり紙で契約をお願いします」のように、書面かメールで伝えます。承諾したあとに戻すときも同じです。元請は、撤回の申出を受けたら、電子契約にしてはいけません(施行令5条の5第2項)。
「この工事だけ紙で」「当面は紙で、準備ができたら電子に」と伝えることもできます。取引の事情と相談して選んでください。
受け取ったあとにやること
契約が成立したら、次のことをしておきます。
- PDF を自社のフォルダにも保存する。ガイドラインは、契約が成立したら、データを自社の端末にも保存することが望ましいとしています(見読性の具体策。親の記事参照)。クラウドサービスだけに置くと、サービスをやめたときや相手がサービスを変えたときに見られなくなるおそれがあります
- 名前の付け方を決める。例として、「契約日_元請名_工事名_契約書.pdf」のように、日付・取引先・内容が分かる形にします。電子帳簿保存法の検索(取引年月日・金額・取引先)に備える意味もあります
- 一覧(台帳)に載せる。紙の契約と電子の契約が混ざる間は、元請ごとに、どちらの方式か、いつ承諾したか、データがどこにあるかを、1枚の表にまとめておくと迷いません
- 保存期間を確認する。建設業の許可を受けた会社は、契約書(またはその写し)を帳簿に添付して保存します。その期間は、工事の目的物を引き渡したときから5年間(発注者と結んだ新築住宅の工事は10年間)です(建設業法施行規則 第26条・第28条、2026年11月1日確認)。電子で結んだ契約書をどの形で保存すれば足りるかは、この記事では確認できていません。行政書士や、許可を扱う窓口に確認してください
取引先ごとにサービスが違う問題
元請がそれぞれ別のサービスを使うと、下請側は、元請の数だけサービスの画面に慣れる必要があります。アカウント登録が必要なサービスは、そのたびに登録することになります。
次の点に気をつけると、混乱を減らせます。
- 同じパスワードを使い回さない。パスワードは、紙のノートやパスワード管理ツールなど、決まった場所で管理する
- 登録に使うメールアドレスを、担当者個人ではなく会社の共用アドレスにする(担当者が辞めても、契約データを見られるようにするため)
- どの元請がどのサービスかを、台帳に書いておく
自分が出す側になるときは
下請に外注を出すときは、今度は自社が承諾をとる側になります。承諾書の項目は親の記事に、サービスの選び方は小さな建設会社の電子契約サービスの選び方にまとめてあります。
なお、労働条件通知書を電子で渡すときの決まりは、請負契約とは別の法律の話です。労働条件通知書・雇用契約書の書き方を参照してください。
よくある質問
承諾しないと、取引を切られる?
この記事の確認範囲では、「承諾しなかった場合に取引がどうなるか」を定めた条文や、公的な窓口の案内を確認できませんでした。そのため、断定は書けません。法令上は、承諾は相手方の判断で、承諾後の撤回もできます(施行令5条の5)。取引への影響が心配なときは、国土交通省や都道府県の建設業の担当窓口、行政書士に相談してください。
署名は、自分で何かするの?
署名の仕方は、サービスと方式で違います。元請が使うサービスの案内に従います。2つの例として、GMOサインの公式ページでは、立会人型(契約印タイプ)なら相手方は加入していなくても締結でき、当事者型(実印タイプ)なら相手方もサービスの利用が必要とされています(2026年11月1日確認)。何をするのかは、返事の前に元請に聞いてください。
スマホだけで足りる?
サービスごとに異なります。この記事では、特定のサービスについて確認できていません。元請に、操作に使う機器を聞いてください(上の確認5点の2)。
まとめ
- 電子契約への承諾は義務ではない。承諾後の撤回もできる(施行令5条の5)
- 返事の前に、方式・自分側で必要なもの・費用・契約後のデータ・自社の保存の5点を元請に聞く
- 返事はメールで残せる。確認してから承諾する返事の例を使うと、聞きもらしが減る
- 契約が成立したら、PDF を自社に保存し、名前の付け方と一覧を決める
- 個別の事情は、国土交通省や都道府県の担当窓口、行政書士に相談する
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